HEP-NOTE

散乱振幅とFeynman則

$Z(J) = \exp iW(J)$ から,汎関数微分を使って場の時間順序積の真空期待値(相関関数)を計算する.2つの場の場合を考え,exact propagator を次のように定義する: $$ \frac{1}{i}\bm{\Delta}(x_1-x_2) \equiv \langle 0 | \mathrm{T}\varphi(x_1)\varphi(x_2) | 0 \rangle $$ 記法を簡単にするため,次のように定義する: $$ \delta_j \equiv \frac{1}{i}\frac{\delta}{\delta J(x_j)} $$ そうすると, \begin{align} \langle 0 | T\varphi(x_1)\varphi(x_2) | 0 \rangle &= \delta_1\delta_2 Z(J) \bigg|_{J=0} \\ &= \delta_1\delta_2 \exp iW(J) \bigg|_{J=0} - \delta_1 iW(J) \bigg|_{J=0} \delta_2 iW(J) \bigg|_{J=0} \\ &= \delta_1\delta_2 \exp iW(J) \bigg|_{J=0} \end{align} 最後の式では,LSZ公式の条件$\delta_j W(J)|_{J=0} = \langle 0|\varphi(x_j)|0\rangle = 0$ を使った.図式的には,$\delta_1$ はソースを1つ除去し,プロパゲータの端点 $x_1$ にラベル付けをする.したがって,$\frac{1}{i}\bm{\Delta}(x_1-x_2)$ は2つのソースを持つ図の和であり,そのソースを除去し端点を $x_1$ と $x_2$ にラベル付けしたものである(ラベルは2通りの方法で付ける必要がある.図が2つのソースの交換に対して対称な場合,対称性因子2はこの2通りのラベル付けで打ち消される).最低次では,唯一の寄与は図の「バーベル」図(ただしソース除去済み)になる.したがって,明らかな事実 $\frac{1}{i}\bm{\Delta}(x_1-x_2) = \frac{1}{i}\Delta(x_1-x_2) + \mathcal{O}(g^2)$ を再現する.$\mathcal{O}(g^2)$ の補正については別で扱う.

(図を挿入)

次の非ゼロの相加関数は, \begin{align} \langle 0 | \mathrm{T}\varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(x_3)\varphi(x_4) | 0 \rangle &= \delta_1\delta_2\delta_3\delta_4 Z(J) \bigg|_{J=0} \\ &= \bigg[ \delta_1\delta_2\delta_3\delta_4 iW \\ &\quad +(\delta_1\delta_2iW)(\delta_3\delta_4iW) \\ &\quad +(\delta_1\delta_3iW)(\delta_2\delta_4iW) \\ &\quad +(\delta_1\delta_4iW)(\delta_2\delta_3iW) \bigg] \bigg|_{J=0} \end{align} ここで$\langle 0|\varphi(x)|0\rangle = 0$ を含む項は省略した.最後の3項は,単に exact propagatorの積になっている.

これらの項を,2つの入射粒子と2つの出射粒子に対するLSZ公式に代入するとどうなるか見てみよう: \begin{align} \langle f | i \rangle &= i^4\int d^4x_1 d^4x_2 d^4x_1' d^4x_2' \, e^{i(k_1x_1+k_2x_2-k_1'x_1'-k_2'x_2')} \\ &\quad \times (-\partial_1^2+m^2)(-\partial_2^2+m^2)(-\partial_{1'}^2+m^2)(-\partial_{2'}^2+m^2) \\ &\quad \times \langle 0 | T\varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(x_1')\varphi(x_2') | 0 \rangle \end{align} 例えば,相関関数のある項として $\frac{1}{i}\bm{\Delta}(x_1-x_1')\frac{1}{i}\bm{\Delta}(x_2-x_2')$ を考えると,次のようになる: \begin{align} &\int d^4x_1 d^4x_2 d^4x_1' d^4x_2' \, e^{i(k_1x_1+k_2x_2-k_1'x_1'-k_2'x_2')}F(x_{11'})F(x_{22'}) \\ &=(2\pi)^4\delta^4(k_1-k_1')(2\pi)^4\delta^4(k_2-k_2')\bar{F}(\bar{k}_{11'})\bar{F}(\bar{k}_{22'}) \end{align} ここで $F(x_{ij}) \equiv (-\partial_i^2+m^2)(-\partial_j^2+m^2)\bm{\Delta}(x_{ij})$,$F(k)$ はそのFourier変換,$x_{ij'} \equiv x_i-x_j'$,$\bar{k}_{ij'} \equiv (k_i+k_j')/2$ である.重要なのは,2つのデルタ関数が現れることである.これは,2つの出射粒子($1'$と$2'$)の4元運動量が,2つの入射粒子($1$と$2$)の4元運動量と等しいことを意味する.つまり,散乱は起こっていない.我々はこの事象の確率を計算したいわけではない.他の2つの類似の項も,散乱が起こらない事象に寄与するか,$\delta^4(k_1+k_2)$ のような因子によって消えてしまう(これは $k_1^0+k_2^0 \geq 2m > 0$ を満たすのでゼロ).一般に,関心のある散乱過程に寄与する図は,完全に連結なものだけである.すなわち,すべての端点が他の端点から図をたどって到達できるものである.これらは,すべての $\delta$ が $W$ の1つの因子に作用したときに現れる図である.したがって,以降はこれらの図だけに注目する.そこで連結相関関数を次のように定義する: $$ \langle 0 | \mathrm{T}\varphi(x_1)\varphi(x_2)\cdots\varphi(x_E) | 0 \rangle_C \equiv \delta_1\delta_2\cdots\delta_E iW(J) \bigg|_{J=0} $$ そして,LSZ公式では $ \langle 0|T\varphi(x_1)\cdots\varphi(x_E)|0\rangle $ の代わりにこれを用いることにする.

4点連結相関関数は, $$ \langle 0 | \mathrm{T}\varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(x_3)\varphi(x_4) | 0 \rangle_C = \delta_1\delta_2\delta_3\delta_4 iW \bigg|_{J=0} $$ となる.この連結相関関数への最低次数($g$の最低次)の非ゼロ寄与は,4つのソースと2つの頂点を持つ図から得られる.4つの$\delta$は4つのソースを除去するが,$\delta$がどこのソースを除去するかには$4!$通りある.これら24個の図は,それぞれ8個ずつ3つのグループにまとめることができる.各グループの8個の図は等価である.3つの異なる図は下に示されている.ここで,8という因子は,対称性因子 $S=8$ をちょうど打ち消すことに注意する.

(図を挿入)

これは,tree diagrams(閉じたループを持たない図)に関する一般的な結果である.ソースを除去し,端点にラベルを付けた後は,異なる端点ラベル付けを持つ各図の全体での対称性因子は1になる.ある過程に対するtree diagramsは,その過程への最低次数($g$の最低次)の非ゼロ寄与を表す.

ここで次のようになる: \begin{align} \langle 0 | \mathrm{T}\varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(x_3)\varphi(x_4) | 0 \rangle_C &= (ig)^2\bigg(\frac{1}{i}\bigg)^5\int d^4y d^4z \Delta(y-z) \\ &\quad \times \bigg[ \Delta(x_1-y)\Delta(x_2-y)\Delta(x_1'-z)\Delta(x_2'-z) \\ &\quad + \Delta(x_1-y)\Delta(x_1'-y)\Delta(x_2-z)\Delta(x_2'-z) \\ &\quad + \Delta(x_1-y)\Delta(x_2'-y)\Delta(x_2-z)\Delta(x_1'-z) \bigg] + \mathcal{O}(g^4) \end{align} 次に,LSZ公式を使う.各Klein-Gordon波動演算子はプロパゲータに作用して $$ (-\partial_i^2+m^2)\Delta(x_i-y)=\delta^4(x_i-y) $$ となる.外部の時空ラベル $x_1, x_2, x_1', x_2'$ についての積分は自明となり, \begin{align} \langle f | i \rangle &= (ig)^2\left(\frac{1}{i}\right)^5\int d^4y d^4z \Delta(y-z) \bigg[ e^{i(k_1y+k_2y-k_1'z-k_2'z)} \\ &\quad + e^{i(k_1y+k_2z-k_1'y-k_2'z)} \\ &\quad + e^{i(k_1y+k_2z-k_1'z-k_2'y)} \bigg] + \mathcal{O}(g^4) \end{align} これを簡単にするために, $$ \Delta(y-z) = \int \frac{d^4 k}{(2\pi)^4}\frac{e^{ik(y-z)}}{k^2+m^2-i\varepsilon} $$ を代入する.すると,時空座標は位相因子にしか現れず,積分するとデルタ関数が得られる: \begin{align} \langle f | i \rangle &= ig^2\int \frac{d^4 k}{(2\pi)^4}\frac{1}{k^2+m^2-i\varepsilon} \\ &\quad \times \bigg[ (2\pi)^4\delta^4(k_1+k_2+k) (2\pi)^4\delta^4(k_1'+k_2+k) \\ &\quad + (2\pi)^4\delta^4(k_1-k_1'+k) (2\pi)^4\delta^4(k'_2-k_2+k) \\ &\quad + (2\pi)^4\delta^4(k_1-k_2'+k) (2\pi)^4\delta^4(k_1'-k_2+k) \bigg] + \mathcal{O}(g^4) \\ &= ig^2(2\pi)^4\delta^4(k_1+k_2-k_1'-k_2') \\ &\quad \times \bigg[ \frac{1}{(k_1+k_2)^2+m^2}+ \frac{1}{(k_1-k_1')^2+m^2}+ \frac{1}{(k_1-k_2')^2+m^2} \bigg] + \mathcal{O}(g^4) \end{align} 記法の簡略化のため $i\varepsilon$ を省略しているが,$m^2$ は本来 $m^2-i\varepsilon$ であることに注意する.全体に掛かるデルタ関数は,散乱過程で4元運動量が保存されることを示している.これは当然期待されることである.一般の散乱過程では,散乱行列要素 $\mathcal{T}$ を次のように定義すると便利である: $$ \langle f | i \rangle = (2\pi)^4\delta^4(k_{\text{in}}-k_{\text{out}})i\mathcal{T} $$ ここで $k_{\text{in}}$ と $k_{\text{out}}$ はそれぞれ入射粒子と出射粒子の全4元運動量である.

この一連の計算から導かれる普遍的な特徴を調べることで,任意の散乱過程に対する $i\mathcal{T}$ の寄与を計算するための簡単なFeynman則を得ることができる:

  1. 入射粒子と出射粒子ごとに線(外線)を描く.
  2. 各外線の一端は自由にし,もう一端を必ず3本の線が集まる頂点に接続する.必要に応じて内線を追加する.このようにして,位相的に異なるすべての図を描く.
  3. 入射線には頂点に向かう矢印を描き,出射線には頂点から離れる矢印を描く.内部線には任意の方向の矢印を描く.
  4. 各線に4元運動量を割り当てる.外線の4元運動量は対応する粒子のものとする.
  5. 4元運動量は矢印に沿って流れるものとし,各頂点で4元運動量保存を課す.tree diagramの場合,これですべての内線の運動量が決まる.
  6. 図の値は以下の因子の積で与えられる:
    • 各外線について 1;
    • 運動量 $k$ を持つ各内線について $-i/(k^2 + m^2 - i\varepsilon)$;
    • 各頂点について $iZ_g g$.
  7. 閉じたループが $L$ 個ある図では,ルール5で決まらない内部運動量が $L$ 個残る.それぞれの運動量 $\ell_i$ について $d^4\ell_i/(2\pi)^4$ で積分する.
  8. ループ図では,内部プロパゲータや頂点の交換で図が不変になる場合,対応する対称性因子で図の値を割る.
  9. 2本のプロパゲータ(同じ運動量 $k$)を接続する相殺項頂点を含める.この頂点の値は $-i(Ak^2 + Bm^2)$ で,$A = Z_\varphi - 1$,$B = Z_m - 1$,いずれも $\mathcal{O}(g^2)$.
  10. $i\mathcal{T}$ の値は,これらすべての図の値の総和で与えられる.
2粒子散乱過程の場合,これらの則から得られるtree diagramは図に示されている.

(図を挿入)

これで散乱振幅 $\mathcal{T}$ を計算する規則が得られた.あとはこれを測定可能な物理量と結び付ければ理論が検証できる.