プロパゲーターに対するループ補正
参考文献:Mark Srednicki. "Quantum Field Theory". Cambridge University Press. 2006.
exact propagatorは, $$ \frac{1}{i}\bm{\Delta}(x_1-x_2)\equiv \langle 0 | \mathrm{T}\varphi(x_1)\varphi(x_2)|0\rangle = \delta_1\delta_2iW(J) \bigg|_{J=0} $$ ここで,$iW(J)$ は連結図の総和であり,$\delta_i$ は図からソースを除去し,対応するプロパゲーターの端点 $x_i$ をラベル付けする働きをする.$\varphi^3$ 理論では,$1/i\Delta(x_1-x_2)$ への $\mathcal{O}(g^2)$ の補正は図のダイアグラムから生じる.これらを計算するには,Feynmann則に従い,運動量空間で直接計算するのが最も簡単である.図には各線への適切な運動量の割り当てが示されている.そうすると, $$ \frac{1}{i}\tilde{\bm{\Delta}}(k^2)=\frac{1}{i}\tilde{\Delta}+\frac{1}{i}\tilde{\Delta}(k^2)\bigg[i\Pi(k^2)\bigg]\frac{1}{i}\tilde{\Delta}(k^2)+\mathcal{O}(g^4) $$ となる.ここで, $$ \tilde{\Delta}(k^2)=\frac{1}{k^2+m^2-i\epsilon} $$ は自由場のプロパゲーターであり, \begin{align} i\Pi(k^2) =& \frac{1}{2}(ig)^2\bigg(\frac{1}{i}\bigg)\int\frac{d^dl}{(2\pi)^d}\tilde{\Delta}((l+k)^2)\tilde{\Delta}(l^2) \\ &-i(Ak^2+Bm^2)+\mathcal{O}(g^4) \end{align} は自己エネルギーである.ここでは時空次元 $d$ で積分を書いている.今は議論に一般性を持たせるため $d$ を任意とするが,後で結合定数 $g$ が無次元となる $d=6$ に注目する.
(図を挿入)
第1項における $1/2$ の因子は,上側と下側の半円状プロパゲーターを交換することによる対称性因子である.また,頂点因子は $iZ_g g$ ではなく $ig$ と書いているが,$Z_g = 1 + \mathcal{O}(g^2)$ と予想されるため,$Z_g - 1$ の寄与は $\mathcal{O}(g^4)$ の項にまとめることができる.第2項では,$A = Z_\varphi - 1$ および $B = Z_m - 1$ はともに $\mathcal{O}(g^2)$ であると予想される.
$\tilde{\Delta}(k^2)$ を非摂動的に定義するには,等比級数を用いると便利である: \begin{align} \frac{1}{i}\tilde{\bm{\Delta}}(k^2)=\frac{1}{i}\tilde{\Delta}(k^2) +& \frac{1}{i}\tilde{\Delta}(k^2)\bigg[i\Pi(k^2)\bigg]\frac{1}{i}\tilde{\bm{\Delta}}(k^2) \\ +& \frac{1}{i}\tilde{\Delta}(k^2)\bigg[i\Pi(k^2)\bigg]\frac{1}{i}\tilde{\Delta}(k^2)\bigg[i\Pi(k^2)\bigg]\frac{1}{i}\tilde{\bm{\Delta}}(k^2) \\ +& \cdots \end{align} これは図に示されている.この総和には,$i\Pi(k^2)$ を「1粒子既約(1 particle irreducible;1PI)」な全ての図の総和として取れば,$\tilde{\bm{\Delta}}(k^2)$ に寄与する全てのダイアグラムが含まれる.1PI図とは,任意の1本の線を切っても依然として連結な図である.$i\Pi(k^2)$ に $\mathcal{O}(g^4)$ の寄与をする1PI図は図に示されている.これらの図の値を書く際には,2つの外部プロパゲーターは省略する.
(図を挿入)
(図を挿入)
級数をまとめると, $$ \tilde{\bm{\Delta}}(k^2)=\frac{1}{k^2+m^2-i\varepsilon-\Pi(k^2)} $$ となる.exact propagatorは $k^2 = -m^2$ で極を持ち,その留数は1である.これが上式と一致するための条件は, $$ \Pi(-m^2)=0,\quad \Pi'(-m^2)=0 $$ である.ここでプライムは $k^2$ に関する微分を表す.これらの式を用いて,$A$ と $B$ の値を決定する.
次に,$i\Pi(k^2)$ の $\mathcal{O}(g^2)$ の寄与の評価に移る.ここで直面する問題は,右辺の積分が $d \geq 4$ の場合,大きな $l$ で発散することである.これは最低次のtadpole図を評価した際にも同様の状況に直面した.そのときは,紫外カットオフ $\Lambda$ を導入し,$\tilde{\Delta}(l^2)$ の大きな $l^2$ での挙動を修正した.ここでは,まず積分が有限となる $d < 4$ の場合に限定して議論を進める.後で,より大きな $d$ の場合についても考察することにする.
積分をいくつかのテクニックを使って評価する.まず,分母をまとめるためにFeynmanの公式を用いる: $$ \frac{1}{A_1\cdots A_n}=\int dF_n (x_1A_1+\cdots+x_nA_n)^{-n} $$ ここで,Feynmanパラメータ $x_i$ に関する積分測度は $$ \int dF_n = (n-1)! \int_{0}^{1} dx_1\cdots dx_n\,\delta(x_1+\cdots+x_n-1) $$ この測度は $$ \int dF_n = 1 $$ となるように規格化されている.
今の場合,次のようになる: \begin{align} \tilde{\Delta}((k+l)^2)\tilde{\Delta}(l^2) =& \frac{1}{(l^2+m^2)((l+k)^2+m^2)} \\ =& \int_{0}^{1}dx\,\bigg[ x((l+k)^2+m^2)+(1-x)(l^2+m^2) \bigg]^{-2} \\ =& \int_{0}^{1}dx\,\bigg[ l^2+2xl\cdot k+xk^2+m^2 \bigg]^{-2} \\ =& \int_{0}^{1}dx\,\bigg[ (l+xk)^2+x(1-x)k^2+m^2 \bigg]^{-2} \\ =& \int_{0}^{1}dx\,[q^2+D]^{-2} \end{align} ここでは簡単のため $i\varepsilon$ を省略しているが,必要なら $m^2 \to m^2-i\varepsilon$ とすればよい.最後の行では $$ q \equiv l+xk,\quad D \equiv x(1-x)k^2+m^2 $$ と定義した.次に,積分変数を $l$ から $q$ に変更する.Jacobianは自明であり,$d^dq = d^dl$ となる.
次に,$q_0$ に関する積分を $-\infty$ から $+\infty$ まで複素 $q_0$ 平面での積分として考える.もし被積分関数が $|q_0| \to \infty$ で十分速く消えるなら,この輪郭を時計回りに $90^\circ$ 回転させ,図に示すように $-i\infty$ から $+i\infty$ へと移動できる.この Wick 回転の際,輪郭は極をまたがない(この主張を明確にするために $i\varepsilon$ が必要である).したがって積分値は変わらない.ここで,$q_0 = i\bar{q}_d$,$q_j = \bar{q}_j$ と定義し,Euclid $d$ 次元ベクトル $\bar{q}$ を導入すると,$q^2 = \bar{q}^2$ となる. $$ \bar{q}^2=\bar{q}_1^2+\cdots+\bar{q}_d^2 $$ また,$d^dq = i\,d^d\bar{q}$ である.よって一般に, $$ \int d^dq\,f(q^2-i\varepsilon) = i\int d^d\bar{q}\,f(\bar{q}^2) $$ ただし $f(\bar{q}^2)$ が $\bar{q} \to \infty$ で $1/\bar{q}^d$ より速く消える場合に限る.
ここで次のように書ける: $$ \Pi(k^2)=\frac{1}{2}g^2I(k^2)-Ak^2-Bm^2+\mathcal{O}(g^4) $$ ただし, $$ I(k^2) \equiv \int_{0}^{1}dx\int\frac{d^d\bar{q}}{(2\pi)^d}\,\frac{1}{(\bar{q}^2+D)^2} $$ となる.この $\bar{q}$ に関する $d$ 次元積分は,球座標系で評価するのが容易である.
しかしこの計算を行う前に,もう一つのテクニックを導入する.これは,$A$と$B$を決定する作業を簡単にしてくれるものである:$\Pi(k^2)$ を $k^2$ で2回微分すると, $$ \Pi''(k^2) = \frac{1}{2}g^2I''(k^2)+\mathcal{O}(g^4) $$ ここで, $$ I''(k^2) = \int_{0}^{1}dx\,6x^2(1-x)^2\int\frac{d^d\bar{q}}{(2\pi)^d}\,\frac{1}{(\bar{q}^2+D)^4} $$ これらの積分を評価した後,$k^2$ について積分することで $\Pi(k^2)$ を得ることができる.その際,極に関する条件を満たすようにする.この方法により,$A$や$B$を明示的に計算することなく $\Pi(k^2)$ を構成できる.
このテクニックにはもう一つ利点がある.$\bar{q}$ に関する積分は,任意の $d < 8$ で有限となるが,元の積分は $d < 4$ の場合にのみ有限である.この拡張された $d$ の範囲には,最も重要な値 $d = 6$ も含まれる.
$\Pi(k^2)$ を $ k^2 = -m^2 $ のまわりでTaylor展開すると,その理由がわかる: \begin{align} \Pi(k^2) =& \bigg[ \frac{1}{2}g^2I(-m^2)+(A-B)m^2 \bigg] \\ &+ \bigg[ \frac{1}{2}g^2I'(-m^2)+A \bigg](k^2+m^2) \\ &+ \frac{1}{2!}\bigg[ \frac{1}{2}g^2I''(-m^2) \bigg](k^2+m^2)^2+\cdots \\ &+ \mathcal{O}(g^4) \end{align} $ I(-m^2) $ は $ d \geq 4 $ で発散し,$ I'(-m^2) $ は $ d \geq 6 $ で発散し,一般に $ I^{(n)}(-m^2) $ は $ d \geq 4 + 2n $ で発散することがわかる.$ A $ と $ B $ の $ \mathcal{O}(g^2) $ の項を使えば,$ \Pi(k^2) $ の $ \frac{1}{2}g^2I(-m^2) $ や $ \frac{1}{2}g^2I'(-m^2) $ の項を打ち消すことができる(それらが発散していても).しかし,有限な $ \Pi(k^2) $ を得るためには,残りの項がすべて有限でなければならない.なぜなら,調整できる自由なパラメータはもう残っていないからである.これは $ d < 8 $ の場合には成り立つ.
もちろん,$4 \leq d < 8$ の場合,$A$ や $B$(およびLagrangian係数 $Z = 1+A$ や $Z_m = 1+B$)の値は形式的には無限大となり,これは不安に感じるかもしれない.しかし,これらの係数は直接測定可能なものではないため,その大きさについて先入観を持つ必要はない.また,$A$ や $B$ にはそれぞれ $g^2$ が含まれていることも重要である.これは,$A$ や $B$ に関して $g$ のべき級数展開の一部として扱えることを意味する.実際に観測可能な断面積に現れる $\Pi(k^2)$ を計算すると,形式的に無限大となる項はすべて $d < 8$ の場合にはうまく打ち消し合い,有限な値が得られる.
$d \geq 8$ の場合,この手法は破綻し,$\Pi(k^2)$ の有限な表式は得られない.この場合,理論は「くりこみ不可能」であると言う.理論がくりこみ可能かどうかの基準については,後で詳しく議論する.実際,$\varphi^3$ 理論は $d \leq 6$ でくりこみ可能であることが分かる(実は$6 < d < 8$ の問題は高次補正から生じる).
それでは $\Pi(k^2)$ の計算に戻る.$\Pi''(k^2)$ を先に計算するテクニックを使う代わりに,ここでは $d < 4$ の場合について直接 $\Pi(k^2)$ を評価し,その結果を任意の $d$ へ解析的に続ける.この手法は次元正則化として知られている.その後,極に関する条件を課すことで $A$ と $B$ を決定し,最後に $d \to 6$ の極限を取る.
同様に,以前の方法を使うこともできる.すなわち, $$ \tilde{\Delta}(p^2)\to \frac{1}{p^2+m^2-i\varepsilon}\frac{\Lambda^2}{p^2+\Lambda^2-i\varepsilon} $$ ここで $\Lambda$ は紫外カットオフであり,この置き換えにより $\mathcal{O}(g^2)$ の $\Pi(k^2)$ の項は $d < 8$ で有限となる.この手法はPauli-Villars正則化として知られている. その後,$\Pi(k^2)$ を $\Lambda$ の関数として評価し,極に関する条件を課すことで $A$ と $B$ を決定し,最後に $\Lambda \to \infty$ の極限を取る. Pauli-Villars正則化による計算は,次元正則化と比べて一般にかなり煩雑になる.しかし,最終的な $\Pi(k^2)$ の結果は同じである.どのような正則化手法を用いても,少なくとも積分のLorentz不変性が保たれている限り,$d < 8$ では同じ結果が得られる.
それでは $I(k^2)$の評価に進む.$\bar{q}$ に関する積分の角度部分は,$d$ 次元単位球の面積 $\Omega_d$ を与える.これは $$ \Omega_d = \frac{2\pi^{d/2}}{\Gamma(d/2)} $$ であり,Gauss積分 $\int d^d\bar{q}\, e^{-\bar{q}^2}$ をデカルト座標系と球座標系の両方で計算することで容易に確認できる.ここで $\Gamma(x)$ はEulerのガンマ関数であり,非負整数 $n$ と小さい $x$ に対して, \begin{align} \Gamma(n+1) =& n! \\ \Gamma(n+\frac{1}{2})=& \frac{(2n)!}{2^n n!}\sqrt{\pi} \\ \Gamma(-n+x) =& \frac{(-1)^n}{n!}\bigg[ \frac{1}{x}-\gamma+\sum_{k=1}^{n}k^{-1}+\mathcal{O}(x) \bigg] \end{align} となる.ここで $\gamma = 0.5772\ldots$ はEuler-Mascheroni定数である.
$\bar{q}$ 積分の動径部分もガンマ関数を使って評価できる.全体の結果(少し一般化して)は次の通り: $$ \int \frac{d^d\bar{q}}{(2\pi)^d}\,\frac{(\bar{q}^2)^a}{(\bar{q}^2+D)^b}=\frac{\Gamma(b-a-\frac{1}{2}d)\Gamma(a+\frac{1}{2}d)}{(4\pi)^{d/2}\Gamma(b)\Gamma(d/2)}D^{-(b-a-d/2)} $$ この公式は本書を通じて頻繁に利用する.今の場合では,$a=0$,$b=2$ である.
もう一つ考慮すべき点がある.$d=6$ の場合,結合定数 $g$ は無次元となるが,一般の $d$ では $g$ の質量次元は $\varepsilon/2$ である.ここで, $$ \varepsilon \equiv 6-d $$ このため,質量次元を持つ新しいパラメータ $\bar{\mu}$ を導入し, $$ g \to g\bar{\mu}^{\varepsilon/2} $$ と置き換える.この方法により,任意の $\varepsilon$ でも $g$ は無次元にできる.もちろん,$\bar{\mu}$ は $d=6$ 理論の実際のパラメータではない.したがって,断面積などの観測可能量は $\bar{\mu}$ に依存しない.
この一見何気ない記述は実は非常に強力であり,くりこみ群の基礎となる.
ここで$d = 6 - \varepsilon$ とすると, $$ I(k^2)=\frac{\Gamma(-1+\varepsilon/2)}{(4\pi)^3}\int_{0}^{1}dx\,D\bigg( \frac{4\pi}{D} \bigg)^{\varepsilon/2} $$ となる.記号の簡略化のため $$ \alpha \equiv \frac{g^2}{(4\pi)^3} $$ と定義すると, \begin{align} \Pi(k^2) =& \frac{1}{2}\alpha\Gamma(-1+\varepsilon/2)\int_{0}^{1}dx\,D\bigg( \frac{4\pi\bar{\mu}^2}{D} \bigg)^{\varepsilon/2} \\ &-Ak^2-Bm^2+\mathcal{O}(\alpha^2) \end{align} ここで $\varepsilon \to 0$ の極限を取る. $$ A^{\varepsilon/2}=1+\frac{\varepsilon}{2}\ln A+\mathcal{O}(\varepsilon^2) $$ を用いると,結果は \begin{align} \Pi(k^2) =& \frac{1}{2}\alpha\bigg[ \bigg(\frac{2}{\varepsilon}+1\bigg)\bigg( \frac{1}{6}k^2+m^2 \bigg)+\int_{0}^{1}dx\,D\ln\bigg( \frac{4\pi\bar{\mu}^2}{e^{\gamma}D} \bigg) \bigg] \\ &-Ak^2-Bm^2+\mathcal{O}(\alpha^2) \end{align} ここで $$ \int_0^1 dx\,D = \frac{1}{6}k^2 + m^2 $$ を用いた.ここで $$ \mu \equiv \sqrt{4\pi}e^{-\gamma/2}\bar{\mu} $$ と定義し,式を整理すると \begin{align} \Pi(k^2) =& \frac{1}{2}\alpha\int_0^1dx\,D\ln(D/m^2) \\ &-\bigg\{ \frac{1}{6}\alpha\bigg[ \frac{1}{\varepsilon}+\ln(\mu/m)+\frac{1}{2} \bigg]+A \bigg\}k^2 \\ &-\bigg\{\alpha\bigg[ \frac{1}{\varepsilon}+\ln(\mu/m)+\frac{1}{2} \bigg]+B \bigg\}m^2+\mathcal{O}(\alpha^2) \end{align} ここで $A$ と $B$ を \begin{align} A=&-\frac{1}{6}\alpha\bigg[ \frac{1}{\varepsilon}+\ln(\mu/m)+\frac{1}{2}+\kappa_A \bigg] + \mathcal{O}(\alpha^2) \\ B=&-\alpha\bigg[ \frac{1}{\varepsilon}+\ln(\mu/m)+\frac{1}{2}+\kappa_B \bigg]+ \mathcal{O}(\alpha^2) \end{align} ($\kappa_A$ と $\kappa_B$ は純粋な定数)とすると, $$ \Pi(k^2)=\frac{1}{2}\alpha\int_0^1 dx\,D\ln(D/m^2)+\alpha\bigg(\frac{1}{6}\kappa_Ak^2+\kappa_Bm^2\bigg)+\mathcal{O}(\alpha^2) $$ となる.このように $A$ と $B$ を選ぶことで,$\Pi(k^2)$ は有限かつ $\mu$ に依存しない形になることが分かる.
$\kappa_A$ と $\kappa_B$ を決定するためには,$\Pi(-m^2) = 0$ および $\Pi'(-m^2) = 0$ の条件を課す必要がある.最も簡単な方法は,まず概略的に $$ \Pi(k^2)=\frac{1}{2}\alpha\int_0^1dx\,D\ln D + \text{($k^2$と$m^2$の線形項)}+\mathcal{O}(\alpha^2) $$ となることに注目することである.次に,$\Pi(-m^2) = 0$ を課すには $$ \Pi(k^2)=\frac{1}{2}\alpha\int_0^1dx\,D\ln(D/D_0) + \text{($(k^2+m^2)$の線形項)}+\mathcal{O}(\alpha^2) $$ とすればよい.ここで $$ D_0 \equiv D \bigg|_{k^2=-m^2} = [1-x(1-x)]m^2 $$ である.$k^2$で微分すると,$\Pi'(-m^2)$が消える条件は $$ \Pi(k^2)=\frac{1}{2}\alpha\int_0^1dx\,D\ln(D/D_0)-\frac{1}{12}\alpha(k^2+m^2)+\mathcal{O}(\alpha^2) $$ となることが分かる.$x$についての積分は閉じた形で計算でき,その結果は $$ \Pi(k^2)=\frac{1}{12}\alpha\bigg[c_1k^2+c_2m^2+2k^2f(r)\bigg]+\mathcal{O}(\alpha^2) $$ となる.ここで $c_1 = 3-\pi\sqrt{3}$,$c_2 = 3-2\pi\sqrt{3}$,および \begin{align} f(r) =& r^3\tanh^{-1}(1/r) \\ r =& (1+4m^2/k^2)^{1/2} \end{align} である.$k^2 = -4m^2$ で分岐点が現れ,$k^2 < -4m^2$ では $\Pi(k^2)$ に虚部が生じる.この点については後でさらに議論する.
exact propagatorは次のように書ける: $$ \tilde{\bm{\Delta}}(k^2) = \bigg( \frac{1}{1-\Pi(k^2)/(k^2+m^2)} \bigg)\frac{1}{k^2+m^2-i\varepsilon} $$ 実際に$\Pi(k^2)/(k^2 + m^2)$ の実部と虚部を $\alpha$ の単位でプロットすると,$|k^2|$が$m^2$に対して小さい範囲では値はかなり控えめであることが分かる. $|k^2|$ が非常に大きい場合には, $$ \frac{\Pi(k^2)}{k^2+m^2} \simeq \frac{1}{12}\alpha\bigg[\ln(k^2/m^2)+c_1\bigg]+\mathcal{O}(\alpha^2) $$ $i\varepsilon$ を考慮すると,$k^2$ は $k^2 - i\varepsilon$ となる.$k^2$ が負の場合, $\ln(k^2 - i\varepsilon) = \ln|k^2| - i\pi$ となる.したがって,$\Pi(k^2)/(k^2 + m^2)$ の虚部は,$k^2$ が大きく負のとき $- \frac{1}{12}\pi\alpha + \mathcal{O}(\alpha^2)$ に近づく.一方,実部は $|k^2|$ が大きいとき対数的に増加し続ける.この意味については後で議論する.