HEP-NOTE

自然単位系における次元解析

自然単位系$\hbar = c = 1$を採る.この設定により,時間 $T$ を長さ $L$ に変換するには $T = c^{-1}L$,長さ $L$ を逆質量 $M^{-1}$ に変換するには $L = \hbar c^{-1} M^{-1}$ となる.したがって,任意の量 $A$ は,質量のべき乗(正・負・ゼロいずれも可)として次元を持つと考えられ,このべき乗を $[A]$ と表す.例えば, \begin{align} [m] =& +1 \\ [x^{\mu}] =& -1 \\ [\partial_{\mu}] =& +1 \\ [d^dx] =& -d \end{align} 最後の式では,時空次元が $d$ の理論へと一般化している.

次に,$d$ 次元時空におけるスカラー場のLagrangian密度を考える: $$ \mathcal{L} = -\frac{1}{2}\partial^{\mu}\varphi\partial_{\mu}\varphi - \frac{1}{2}m^2\varphi^2 - \sum_{n=3}^{N}\frac{1}{n!}g_n\varphi^n $$ 作用は $$ S = \int d^dx\, \mathcal{L} $$ 経路積分は $$ Z[J] = \int \mathcal{D}\varphi\, \exp\left[ i\int d^dx\, (\mathcal{L}+J\varphi) \right] $$ 作用$S$は指数関数の引数として現れるため,無次元でなければならない.したがって $$ [S] = 0 $$ これより, $$ [\mathcal{L}] = d $$ また,$\partial_\mu\varphi\partial^\mu\varphi$が$\mathcal{L}$の項であることから $$ [\varphi] = \frac{d-2}{2} $$ さらに,$g_n\varphi^n$も$\mathcal{L}$の項であることから $$ [g_n] = d - \frac{1}{2}n(d-2) $$ 特に,$\varphi^3$理論の場合は $$ [g_3]=\frac{1}{2}(6-d) $$ よって,$\varphi^3$理論の結合定数は$d=6$次元時空で無次元となることが分かる.

次元なしの結合定数を持つ理論は,次元ありの結合定数を持つ理論よりも一般に興味深いものとなる傾向がある.これは,散乱振幅の結合定数への非自明な依存性は,次元なしのパラメータの関数として表現されなければならないためである.もし結合定数自体が次元を持つ場合,このパラメータは結合定数と粒子質量 $m$(ゼロでなければ)または高エネルギー領域 $s \gg m^2$ では Mandelstam 変数 $s$ の適切なべき乗との比でなければならない.したがって,関連するパラメータは $g\, s^{-[g]/2}$ となる.$[g]$が負の場合,$g\, s^{-[g]/2}$ は高エネルギーで発散し,摂動展開が破綻する.この振る舞いは,負の質量次元を持つ結合定数の理論がくりこみ不可能であることと関係している.こうした理論に意味を持たせるために無限個のパラメータが必要となることが分かっている.逆に$[g]$が正の場合,$g\, s^{-[g]/2}$ は高エネルギーで急速にゼロに近づくため,理論は高エネルギーで自明になる.

したがって,$[g]=0$の場合がちょうど良い.すなわち,散乱振幅はすべてのエネルギー領域で$g$への非自明な依存性を持つことができる.

したがって, $[g_3]=0$ となる $d=6$ 次元時空の $\varphi^3$理論がちょうど良い.