有限群に関する基本的な定理

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概要

有限群の任意の表現はユニタリー表現に同値であり,かつ完全可約である.この定理は有限群の理論を展開する上で基本的な役割を果たす.ここではこの定理を紹介し証明する.


目次


基本的な定理I

定理
有限群の任意の表現はユニタリー表現に同値である.
証明 $D$を有限群$G$の任意の(行列)表現とする.やや天下り的ではあるが次の演算子を考える: \[ S=\sum_{g\in G}D(g)^{\dagger}D(g) \] このとき$S$は明らかにエルミート($S^{\dagger}=S$)である.また半正定値($\langle v|Sv \rangle\geq0$)である.
証明 $S$が半正定値であることを示す:エルミート行列の定義,内積の定義,ノルムの定義より, \begin{align} \langle v|Sv \rangle =& \langle v|[\sum_{g\in G}D(g)^{\dagger}D(g)]v \rangle \\ =& \sum_{g\in G}\langle v|D(g)^{\dagger}D(g)v \rangle \\ =& \sum_{g\in G}\langle D(g)v | D(g)v \rangle \\ =& \sum_{g\in G}||D(g)|v\rangle||^2 \geq 0 \end{align} よって$S$は半正定値である.
エルミート行列$S$はあるユニタリー行列$U$により常に対角化でき,固有値は実数である.また半正定値性より$S$の固有値は非負である.つまり, \[ S=U^{-1}dU \] ここで$d$は対角行列で \[ d=\mathrm{diag}(d_1,d_2,\ldots) \] ($d_j\geq0$ for $\forall j$)と書ける.しかし群の性質より,このとき任意の$j$について$d_j>0$である.
証明 任意の$j$について$d_j>0$であることを背理法で示す:ある$j$について$d_j=0$であると仮定する.そうすると$S|\lambda\rangle=0$となる固有ベクトル$|\lambda\rangle$がある.しかし \begin{align} \langle \lambda|S\lambda \rangle=&\sum_{g\in G}||D(g)|\lambda\rangle||^2 \\ =&0 \end{align} となるのでノルムの定義より$D(g)|\lambda\rangle$は任意の$g$に対してゼロでなければならない.これは単位元の表現が$D(e)=1$でなければならないことに矛盾する.したがって任意の$j$について$d_j>0$である.
したがって,正則なエルミート行列 \begin{align} X=U^{-1}\mathrm{diag}(\sqrt{d_1},\sqrt{d_2},\ldots)U \end{align} が定義できる.この$X$で任意の$g\in G$に対する行列$D(g)$を異なる行列$D'(g)$に相似変換する: \[ D'(g)=XD(g)X^{-1} \] このとき$D'(g)$はユニタリー行列である.
証明 $D'(g)$はユニタリー行列であることを示す: \begin{align} D'(g)^{\dagger}D'(g)=&[X^{-1}D(g)^{\dagger}X][XD(g)X^{-1}] \\ =&X^{-1}[D(g)^{\dagger}SD(g)]X^{-1} \end{align} である.ここで \begin{align} D(g)^{\dagger}SD(g)=&D(g)^{\dagger}[\sum_{h\in G}D(h)^{\dagger}D(h)]D(g) \\ =&\sum_{h\in G}D(hg)^{\dagger}D(hg) \\ =&\sum_{g'\in G}D(g')^{\dagger}D(g') \\ =&S=X^2 \end{align} となるので(途中で組み換え定理を用いた), \[ D'(g)^{\dagger}D'(g)=X^{-1}X^2X^{-1}=I \] したがって,$D'(g)$はユニタリー行列である.
このようにして有限群の任意の表現は常にユニタリー行列に相似変換できる.つまりユニタリー表現に同値である.

基本的な定理II

定理
有限群の任意の表現は完全可約である.
証明 先の定理より,ユニタリー表現が完全可約であることを示せば十分である.また表現が既約な場合,既にブロック対角な形にあるため完全可約である.したがってユニタリー表現が可約な場合について完全可約であることを示せば十分である.ユニタリー表現$D$が可約ならば,ある不変部分空間が存在し,その不変部分空間への射影演算子$P$が存在する.ここで表現空間$V$の任意のベクトル$|v\rangle$は恒等的に \[ |v\rangle = P|v\rangle +(I-P)|v\rangle \] と書ける.このとき$(I-P)|v\rangle$全体の集合は$\mathrm{ker}P$である.
証明 $(I-P)|v\rangle$全体の集合は$\mathrm{ker}P$であることを示す: \begin{align} P(I-P)|v\rangle=&P|v\rangle-P^2|v\rangle \\ =&P|v\rangle-P|v\rangle=0 \end{align} ここで射影演算子の定義$P^2=P$を用いた.よって$(I-P)|v\rangle$全体の集合は$\mathrm{ker}P$である.
ユニタリー表現$D$が作用しても内積はユニタリー性により保たれるため,$\mathrm{Im}P$だけでなく$\mathrm{ker}P$も不変部分空間である.定義より$\mathrm{Im}P\cap\mathrm{ker}P=\{0\}$であるから適当な基底で$\mathrm{Im}P\perp\mathrm{ker}P$とできる.これは可約表現$D$を$\mathrm{Im}P$に作用する部分表現$D_1$と$\mathrm{ker}P$に作用する部分表現$D_2$に直和分解できることを意味する.この部分表現$D_1,D_2$に対し同様の議論を繰り返すことができ,表現は既約表現の直和分解される.したがって任意の表現は完全可約である.

参考文献