部分群と商群

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概要

部分群はそれに属する元がより広いクラスの群に属するような群である.多くの群はいくつかの非自明な部分群を含む.部分群は群論において基本的な役割を果たす.ここでは部分群の定義と例,それに付随する重要な概念である商群について紹介する.


目次


部分群の定義と例

定義
群$H$は,それに属する元が全ての群$G$の元であるとき,群$G$の部分群(subgroup)と呼ぶ.

単位元のみの集合$\{e\}$や$G$自身は,明らかに$G$の部分群であり,自明な部分群(trivial subgrup)と呼ぶ.非自明だが簡単な例を挙げる:

巡回群$Z_2,Z_3$は対称群$S_3$の部分群である.これは$S_3$の群表からも明らかである.

剰余類と商空間

部分群が存在すると群の元を「剰余類」と呼ばれる特別な部分集合に分類することができる.

定義
群$G$における部分群$H$の左剰余類(left-coset)とは,$G$のある元$g$に右から$H$の任意の元を作用させて得られる元の集合であり,$gH$と表す.同様に右剰余類(right-coset)$Hg$も定義される[1]
任意の元$g\in G$に対して,それぞれ左または右剰余類が定義される.それらを集めて再び集合を作ることができる:
定義
各剰余類を1つの元とする空間を商空間(coset space)と呼び,$G/H$と表す.
単に剰余類を集めてきただけではまだ何も面白くはない.

脚注

  1. ここで定義した左剰余類のことを右剰余類と呼ぶ人もいるので注意する.しかし多くの物理学者はここでの意味で捉えていると思われる.

正規部分群と商群

部分群の中でも特に次の種類の部分群が重要である:

定義
集合$H$を群$G$の部分群とする.任意の$g\in G$に対して \begin{equation} gH=Hg \tag{1}\label{1} \end{equation} が成り立つとき$H$を正規部分群(normal subgroup)あるいは不変部分群(invariant subgroup)と呼ぶ.条件式$\eqref{1}$をもう少し正確に書くと \begin{align} &\forall g\in G.\,\forall h_1\in H. \\ &\exists h_2\in H.\,\mathrm{s.t.}\,h_1g=gh_2. \end{align} である.

自明な部分群は任意の群において明らかに正規部分群である.非自明だが簡単な例を挙げる:

群$S_3$の部分群$Z_3$は正規部分群である.しかし部分群$Z_2$は正規部分群ではない.

参考文献